「ある愛の詩」

朝。カーテンを開けて、陽の光を部屋に取り込む。今日も良い天気だ。
明るくなった部屋に鎮座する、ケージの鍵を開ける。
俺の姿を確認して、3匹のたぬき達が口々に騒ぎ出す。
「ご主人…おはようございますし…！」
「今日もいい朝だし…」
「お世話になりますし…」
ここまでなら別にいいんだけども。


しっぽをフリフリさせながら、たぬき達はスカートの裾を摘んでパタパタさせる。
お尻をこっちに向けてスカートを捲る個体もいた。
黒い生地が見え隠れし、全く嬉しくないパンチラから1日は始まる。

「いやーん、し…」
「えっちな風さんだし〜」
「ご主人、見たし？たぬきのおぱんつ、見ちゃったし？」
「きゃー、し…」
早くも1日を終わらせたくなる。
そう、コイツらは俺に性的興味を抱いているのだ。

都会暮らしの敵はストレスだ。
その中には、孤独感や承認欲求の不満が含まれる。
ふと、犬か猫でも見てみようかと立ち寄ったペットショップで、
ちょっと大きいけど3匹まとめて80％オフとかなりお買い得だったので、
話し相手やお手伝いも見込めるというポップや店員の熱心な説明を受けて、
「安かったからってたぬきに手を出したのが間違いだった…」
「手を出されちゃったし…」
そう言う意味じゃない。
「中に出されてもいいですし…」
どこで覚えるの？そういうの…怖…。

購入したペットショップでは
「とっても人懐っこくて、どの子も可愛いですよ。ちょっと…個性的ですけど」
との説明を受けた。
人懐っこいの意味がなんか違った。
個性的なのはちょっと所の話ではなかった。
最後の方で目を逸らしていたのに気がつくべきだった。

たぬきどころか生き物を飼うのは初めてだったので
検索して出てきたサイトに書いてあった、
“ペットショップの大人たぬきは、環境にもよりますが心が傷ついた状態の個体が多いです。
さわるな…と反射的に拒否しますが、飼い主は根気よく接していきましょう。
やがて心を開けば、自分から近づいてきてくれます。
知能があるため、こちらの善意に気づいてくれればコミュニケーションは決して難しくありません”
という文言を信じ、なるほどまずはこちらからスキンシップをしなければならないんだな、とーーー。
触り方がわからず、早く仲良くなりたい一心で、頭、しっぽ、身体、もみくちゃにするように触りまくった。
当初は加減がわからず、流石にやり過ぎたと自分でも反省している。
嫌がられるかと思ったが、たぬき達の反応はネットに書かれているものとは違っていた。
「大胆だし…！」
「とんでもない飼い主さんに当たっちゃったし…」
「でもたぬきは受け入れますし…♪」
それからは事あるごとに、性的アピールの日々が始まった。
そんなん思わないじゃん。ペットに性的興味を持たれるなんて思わないじゃん。

たぬき達からすれば、
「あれはまるでレイプだったし…」
「さわるなって言ってもさわられ続けて…汚されたと思ったし…」
「でも同時に新たな扉が開いたし…」
との事。本気で謝りたいし戻せるなら時を戻したい。



「なぁ。俺って、舐められてんのかな」
「とんでもないですし…お慕いしてますし…」
「でも舐められるものなら是非とも舐めたいし…」
「ぺろぺろし…」
何を言っても性的に結びつけてくるコイツらの知能が怖い。
朝ごはん用意しなきゃ。
逃げるように部屋から出る。
「今日も“すきんしっぷ”欲しいし…」
「ほしがりたぬきにご褒美くださいし…」
もうあれから触りにくくなっちゃったよ。
お風呂とかは必要だからやるけど。ゴム手袋つけて。
ちなみに無視し続けていても、
「放置プレイもいいし…」
こうなる。
コイツらすごいポジティブなんだよな。それだけは認める。
なんか、生きることに対して前向きになれる気がする。
絶対叶わない恋を諦めない姿勢とエネルギーはなんか凄い。


朝ごはんに切ったバナナを入れたヨーグルトを食べさせていると、
スプーンを咥えたままのたぬきが呟いた。
「これがご主人のアレだったらいいのにし…」
「わかるし…」
おい食事中だぞ。いやアレが何とは言ってないけどナニを見つめながら言われればこう言いたくもなろう。
聞かなかったことにしてニンジンジュースをたぬき用マグカップに注ぐ。
「早くご主人との間に子供ほしいし…」
それは無理だ。どうあっても。
種を残そうとする生存本能…とはなんか違う気がするが、
子たぬきだけは絶対に家に入れないようにしなければ。
“ほうら…パパだし…”
とかやられたら多分耐えられない。気絶する。
捨ててあるやつも絶対接触させたくない。
この性的アタックコンボに認知してくれネタを詰め込まれたらこっちが保たない。
ていうかコイツら全然ションボリしないからこの辺りにはポップしないと思う。
「いいから、そろそろ出かける時間だぞ」
「デートの時間だし…！」
散歩のことをデートって言うな。



散歩用の首輪とリードをつけられ、3匹のたぬきはトボトボと歩く。
人間と同じで、外の刺激もないとダメになってしまうとネットには書かれていた。
コイツらは精神的にはダメなんだけど。
「この首輪とリードさえなければ、もっと近くで歩けるのにし…」
「公衆の面前でたぬきに首輪つけなきゃ気が済まないなんて…ご主人はとんだ変態さんだし…💕」
「首輪プレイだし…」
違うよ。こうしないと野良に連れて行かれたりもどきに食べられちゃうだろ。
そうして欲しいのか？
頬を両手で持ち上げてモチモチさせながら、お尻を左右に振るたぬきども。揺れるしっぽを見ていると早くも帰りたくなる。
だがここである程度発散させておかないと、毎晩身の危険を感じることになる。
疲れさせて早く寝てもらうに限るので、散歩は欠かせなかった。


散歩がてら向かった先の公園では、広さを活かしたボール遊びが主流だった。
距離を取って、たぬきが両手で転がしたボールをキャッチして、
扇形に並んだたぬきに一投ずつ返してやるのを繰り返す。
ボールの速度は大したことは無いが、あちこちに転がっていくボールを取りに行くので、こちらとしても結構な運動不足解消になる。
「ほんとはご主人のボールがいいし…」
「それは是非とも転がしたいし…」
「ならバットも欲しいし…」
お前らほんと外でそれ言うなよ。
ほら一緒に遊びたそうにこっちを見てた野良のたぬきが青ざめて逃げていったじゃん。
近隣のたぬきにとって順調にヤベーやつにされている気がする。
気を取り直して、シャボン玉セットを取り出して持たせる。
口を塞ぐにはこれが1番だ。
ふー。ふー。ふわわわ。
キラキラしたシャボン玉がいくつも風に流れていく様は、たぬきからしても心踊る光景のようで、
夢中になってくれてしばらく静かになってくれる。
「たぬきは吹くより吸うほうが得意ですし…」
「ご主人もシャボン玉やりませんかし…？泡あそび愉しいし…」
「たぬきにぶっかけて欲しいし…」
だが飽きたらこれだ。
誰がたぬきの唾液でベチャベチャのストローを口にするんだ言いながら涎垂れてるじゃねえか。



帰宅してからも部屋で遊んだり、一緒にテレビを見ているうちに休日はあっという間に過ぎていく。

「ご主人…今日こそは一緒にお風呂入るし…」
「いつも一緒に入って洗ってあげてるじゃん…」
「違うし…ご主人も脱ぐし…」
「裸の付き合いだし…」
「洗いっこするし…」
ヴッフ…ヴッフ…と俺の裸を想像してか、どんどん呼吸が荒くなるたぬき達。
無視してシャツの袖とズボンの裾を捲り、
空っぽの浴槽に3匹を並ばせる。
もちろん、ゴム手袋は欠かせない。
「どうかゴムは無しでお願いしますし…」
「やっぱりナマがいいし…」
「今日は安全日だし…」
髪の毛やしっぽは丁寧に洗い、身体はもうざっくりと洗ってシャワーをぶっかける。
「たぬきのあんな所やこんな所…もっと触ってくださいし…」
「モチモチし放題だし…」
「尻尾もアソコも濡れたし…」
どこで覚えてきたんだこんな言葉。
シャワーの音で聞こえないようにしながら、
1匹を洗ってるうちに、こちらに寄ってくる2匹を肘で制する。



アイツらって、何なんだろう。
怒る気にもなれないが矯正するのは絶対無理な気がする。
出されたご飯はきちんと食べるしトイレもちゃんと出来るし、基本的に躾られている。
ただこっちを性的に見てくるだけだ。
じゃあ全然躾なってないじゃんと俺は頭を抱える。
こんなんじゃ、女の子を部屋に呼べない。
犬猫と同じような感覚で、たぬきを飼っていると言えば食いついてくる女子も世の中にはいるらしいが、
コイツら絶対余計なこと言う。あることないこと言うのが目に浮かぶようだ。
というかご主人の意味が変わってきてしまう。
コイツたぬきにご主人様って呼ばせてるんだ…てなる。
たぬシコの変態のレッテルを貼られて終わるなんて嫌すぎる。

こちらに害を加えてくる訳ではないので、ひどい事をしたくはない。
いや精神的には害を加えられている気がする。
ただ、慕ってくれていると思えばなーーー悪いやつらじゃないんだよなと考えながら、
各自にタオルを渡し、自分たちで拭かせている間に、自室に戻って濡れた服を脱いでいると。
1匹のたぬきと目が合った。
「あ…どうぞどうぞし…」
バスタオルを身体に巻いた姿で、扉の影からこちらをガン見していたようだ。
「そのままいっちゃってくださいし…」
お前がそのまま逝っちゃってください死だよコノヤロウ。
ごめん。今のは過激すぎた。
呼吸が荒くならず、深呼吸のようにすーーー、はーーーと吸ったり吐いたりしているこが逆に不気味すぎて嫌だ。
何を取り込んでいるんだよ一体。
素っ裸でこちらに来ていた個体と、靴下だけ履いてる個体も覗いていたので、3匹まとめて脇に抱えて連れ出し、さっさと服に着替えさせた。


ちなみに、コイツらも御多分に洩れず、踊りは好きなようだ。
俺が仕事や家事で見ていないうちに3匹で練習して、夜になると練習の成果を見せてくれる。
「では見ててくださいし…」
「おどりこさんに触るのは…ご主人だけゆるされますし…」
「連れてきてくれた時の感じでお願いしますし…」
ただ、あまり正解を見たことがないからハッキリとはわからないが、なんか違う気がするんだよな。
一見するとうどんダンスなのだが、
露骨に股間を突き出したり、
お尻をフリフリするところをやたら強調してくるのが気になる。
「ウッ…！ウッ…！」
なんかなあ。特に最後のうっ♪が違うんだよな。軽快じゃなくてすごく湿っぽいんだよな。
「ご主人専用ですし…」
「求愛ダンスだし…♪」
「ご主人のスープほしいし…」
「その愛には応えられないんだごめん」
俺は物怖じせず、なるべくハッキリと返事をするようにしている。
もう何度フッたことだろうか。そのうち食べたパンの枚数は超えそうだ。
「ガーンし…」
元気よく振っていた尻尾をションボリさせ、青くなっているたぬきだが、
どうせご飯を食べ終えたら大体また同じ行動に入る。
コイツらの脳みそはどうなっているんだ。


寝るときは安全のために鍵付きのケージに入れてやる。
何の安全？俺の安全。

「会えない時間が想いを募らせるし…」
「いつでも呼んでくださいし…」
「夜はまだ長いし…」
8時間後にはまた会わなきゃいけないと思うと明日なんて来なければいいのに。
電気を消して、扉を閉じる。


そうこうしてからも、それなりに忙しい。
床用のおそうじワイパーや、取っ手付き粘着テープで部屋のゴミを取り切るのが日課だ。
男の一人暮らし、元々それほど綺麗好きではなかったがアイツらのおかげだ。
以前、何で取っ組み合いのケンカしてるのかと思ったら、落ちていた陰毛の所有権を巡って争っていたからだ。
おかげであれから家はすごく綺麗になった。絶対毛ひとつ残せねえ。



寝ているかを確認しに行くと、いつものやつがおっぱじまっていた。
「ご主人っ…ご主人んん……！」
床に伏せて丸まったまま、股ぐらに手を突っ込んでｸﾁｭｸﾁｭと音を立ててもうこの音聞きたくない。
尻尾が物凄くピンと伸びてるのもなんか嫌だ。
お腹を突き出し、腰を反らしてのけぞってるやつもいる。
「ご主人…出るし…出るしっ…」
「何が出るし…？」
「別に何も出ないし…でもこう言った方が気持ちいい気がするし…」
「なるほどし…真似するし」
気軽に地獄を展開するな。
コイツら夜な夜な知識を共有してるらしい。
たぬきは確か夜行性とも聞いたけど夜の意味が違いすぎる。
「あーんし…あーんし…」
もう1匹はこちらに気がつき、スカートの中をまさぐりながら、何度もチラチラと窺ってくる。
拷問かな。

えっと…こういうのってどこに電話すればいいんだっけ。
何故かどこに出しても俺が悪いことになる気がする。
たぬき愛護団体なんかに知られたら、可愛いたぬきちゃんに卑猥なこと教えるなんてどうかしてる！と怒られるのだろうか。
言っておくが被害者はこっちだ。
ペットに性的に見られるなんて恐怖でしかない。

なんかもうこちらが虐待されてるような気分になってきた。
後日、返品も視野に入れてあのペットショップに電話してやろうと思ったら潰れてた。


オワリ